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夜風

ジェット航行が主力のマテリアリオン号ではあるが、
嵐を抜けた今は、一晩中セイルを開いて、背を追う夜風を
楽しむことにした。クルーたちも、メリークリスマスが飛び交う
久々の酒盛りに、一段とにぎわっているようである。
僕は艦橋からその様子を見ながら、ときにブランデーをすすり
1号艦長や島のみんなに、手紙を書いている。

インク瓶に何度か目をうつすたびに、時計を見ている。
そして時計を見るたびに、例の石に目をやっている。

「絶対」と口にすることをためらう僕も、今回この石ばかりは
航海に立ち上がったときと同じくらいに信じられる、また信じさせる
エネルギーを感じる。
クルーたちも、僕のその同じ目の色を感じ取ってか、
艦橋に上ってくるものはみな、石をみたり様子を聞いたりしてくれる。
最近では、毎晩この石とともにまばらなデックに降り、水平線で分けられた
夜空と2つの月を眺めている。ともに、踊る波と夜風も、一緒に降りてくる。
今晩も船首でこの沈黙の石を掲げ、その海の息を体に感じるたびに、クルーたちと歓声をあげる。

一度自ら光った光石は、こちらの作用に呼応するようになるが、
その「煌(きらめ)き」を起こすには、待つしか方法がない。
船首の青い光とともに毎日動き続けることが、その煌きを早め、
ときには偶発する唯一の方法である。万物に引力があるように、何事にも
ささやかながら因果は存在するのだ。

しかし。

何かの原石であることは、確証しなければならない上、
フィギュアヘッドに取り付けるにはまだ早い。
思い出すのは、今われわれを先導してくれているマテリアリオンのことである。
老船1号機が沈んだあの3年前、鏡の自分と手を取るように
次元を介してつくったこの光石は、船出とともに静かな赤を帯び、
やがてはうすれ、時間をかけ嵐を越え、今では、この孤高の青のみが次の大陸を射している。

漂流の道中、一緒に大陸に向けて並走している船と、また交信していた。

この船は同郷出身で、われわれより少しあとに船出したうちのひとつである。
動力炉が1基壊れているおかげで、少しスピードが緩やかになっているわれわれの船は
最近ではその理由で、あたしい仲間に出会う。
原石と思しきこの石の話をすると、ひとつ、興味深い話を聞かせてくれた。

「悠光河の河口に、持っていったらどうだ?」

--- そうだ。
その昔、悠光河の上流で、光石の原石が見つかったという話を書物に読んだことがある。
原石が河で見つかるのなら、せめて河口に来る頃には石は熟しているはず。

悠久の大河、悠光河。
上流から非常に緩やかなスピードで流れるこの河は、その事象の変化に
万年の時の功を感じずにはいられない。名前の由来でもある澄んだ水の不思議な光は、
われわれ航海人が一生に一度、あるいは二度くらいしか
あえないであろう光石が、そこに眠っていることを思わせる。

僕もあそこへゆくたびに、心がゆったりとし、ときには涙も洗ってくれ、
次への航海をしっかり見据えることができる。

そうだ、あそこならきっと、この石のことがもう少し分かるかもしれない。
悠久の水を含ませ、時間はこれからずっとかかるかもしれないが、
少しずつでも、何かが分かってくるに違いない。

「来世に託すほどの時の長さを知ることは、まだワシの課題じゃよ」

この河にはじめて連れてきてもらったとき、いつかそう言って
笑っていた艦長を思い出した。とても想像のつくことではないが、
あきらめと紙一重ともいえるこの果てない志を、この石に託してみよう。

明日の朝、河口へ向かうとクルーに告げ、投錨し、床に就く。

その晩、絶えない赤い光を帯び成長したこの石の "姿" を、夢に見た。

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